FBIのダン・ボンジーノ副長官は、「意見で報酬をもらう立場ではなくなった」と述べつつ、かつて自らも広めたエプスタイン事件の陰謀論を否定した。
ボンジーノ氏は7日放送のFOXニュースのインタビューで、「エプスタイン・ファイルが厄介な問題であることは承知しているが、私の答えは明らかだ。私はもう意見ではなく、証拠にもとづいて報酬を得ている」と述べたうえで、「われわれの捜査資料が示す証拠によれば、あれは自殺だった」と断言。「素晴らしいビデオがある」として、決定的な証拠だと強調した。
このビデオはエプスタインの居室の内部ではなく、その周囲の「エリア」の様子を記録したもので、ボンジーノ氏によると、看守が12時間の間巡回を怠っていたにもかかわらず、その間に周辺を出入りした者はいなかったという。
なお同氏は、先週『FOX&フレンズ』で、DNAや音声記録などの「他殺を示す証拠は一切ない」と語った後、陰謀論を信じるMAGA層から激しい批判を受けていた。
司法当局はすでにエプスタインの死を「自殺」と断定しているが、状況には不可解な点が多い。
2019年7月23日に最初の自殺未遂があった後、「適切な同房者」をつけるよう指示されていたにもかかわらず、死亡前日にその同房者は移動させられ、当日は一人だった。死亡時刻には担当の看守2名が居眠りやネットサーフィンをしており、首吊りに使われたリネンは過剰に供給されていた。さらに監視ビデオは「誤って」上書きされ、バックアップも残っていない。
かつて、こうした点を繰り返し取り上げ、陰謀論の拡散に最も積極的だったのが、他ならぬボンジーノ氏だった。
元ニューヨーク市警やシークレットサービスとしての経歴を持ち、後にMAGAインフルエンサーとなった彼は、自身のポッドキャストで数百万人のフォロワーに対してエプスタイン事件は「重要」だと強調。エプスタインは影響力と脅迫能力のために殺害されたという報道陣による「極めて重要な」証言があるなどと主張していた。
■陰謀論が陥る無限ループ
陰謀論が持つ構造的な問題点について、陰謀論の専門家でジャーナリストのマイク・ロスチャイルド氏はNPRの取材で次のように語っている。
「陰謀論には、反証を“確証”に変える何かが常に存在する。つまり、パテル(FBI長官)やボンジーノの発言に対する最初の怒りが収まった後で、今度は”なぜ彼らがそんなことを言ったのか”について、さらなる理由があるはずだと正当化を試みる、まるでプレッツェルのようにねじれた弁明が始まる」。
同氏は、そうした思考回路こそが、QAnon誕生の土壌だったとも述べている。
「QAnonは説明するための手段として生まれた。”実際に起きているんだ。ただし秘密裏に進行している。一般人には分からないように、反発されないようにやらなければならないんだ”と」。
QAnonとは、著名人による悪魔崇拝や小児性愛ネットワークが実在し、それをトランプ氏が裏で暴き、正義の嵐を起こす――という筋書きを信じる陰謀論である。
ボンジーノ氏が否定しようが、こうした陰謀論が簡単には消え去らないのはその構造ゆえだ。
同氏の番組内の発言に対してSNSでは、「エプスタインが殺害されたことが確認できた」、「私はいまだに嘘に支払っている、今度は別の嘘に」、「隠蔽工作が順調に進行している」、「彼らが証拠を処分したんだから当たり前。バー司法長官が職務を全うし、FBIもそうした。クリストファー・レイが責任を持ってテープを破棄したんだ」と、疑念を深める声が投稿されている。
エプスタイン事件の取り扱いは、トランプ氏にとって政治的リスクにもなりかねない。トランプ氏と決別したイーロン・マスク氏は5日、Xへの投稿(現在は削除)で、エプスタイン・ファイルが公開されないのは、トランプ氏がその中に含まれているからだと主張。トランプ氏が何らかの形で犯罪に関与していた可能性を示唆した。
マスク氏の根拠は不明だが、トランプ氏がかつてエプスタインと親密だったことはよく知られている。民主党の議員らは投稿直後に司法長官に宛てた書簡でマスク氏の主張が真実であるかどうか「直ちに明らかにする」よう司法長官に求めており、こうした指摘が今後の選挙戦に影響を与える可能性もある。