ウクライナ軍が使用するSpaceXの通信衛星サービス「スターリンク」の軍仕様版「スターシールド」に速度制限がかかった問題で、超党派の上院議員9人は10月15日、国防総省の監察総監に調査を求めた。焦点は、制限や情報共有の途絶について、誰が判断し、どこに責任があるのかにある。
SpaceX株(SPCX)は同日、一時約7.6%下落した。終値は前日比2.33%安の148.62ドルだった。
発端は10月14日
ゼレンスキー大統領の防衛技術担当顧問、セルヒイ・ベスクレストノフ氏は10月14日、SNSで、防衛部隊には制限について事前の通知がなく、一部の任務が遂行できなくなったと公表した。時速100マイル(約160km)を超える速度では、軍用仕様のスターリンクの運用が停止されたという。ゼレンスキー大統領はこれを「大きな間違い」と批判した。
これに対し、イーロン・マスク氏は、スターシールドは米政府が所有・管理しており、速度などの制限は米軍が、最終的には大統領が決めると主張した。また、民間向けスターリンクは攻撃的な軍事行動への利用を禁じているとも述べた。
一方、Axiosの報道によると、米政府高官は政権の関与を否定し、米当局者は技術的な不具合を指摘している。いずれも匿名の情報源とされる。
スターシールド(Starshield)とは
スターシールドは、SpaceXが民間向けに提供するスターリンクの技術を基に、米政府や軍向けに提供している衛星通信サービスだ。ウクライナでは、米国防総省が費用を負担する形で提供されている。具体的な契約金額は明らかではない。米宇宙軍の宇宙システム軍団(SSC)商用衛星室は2024年12月、Bloombergに対し、2つの契約で計3,000台の端末にサービスを提供していると説明した。
議員らが求めた調査
書簡は、民主党のシャヒーン上院議員と共和党のティリス上院議員が主導した。議員らは書簡で、制限前のウクライナへの提供は速度無制限が取り決めだったと指摘した。関連サービスの少なくとも一部は宇宙軍が管理する契約で提供されているとして、事前通知のない制限は国防総省の契約監督に深刻な疑問を投げかけるとした上で、次の調査を求めた。
- 情報共有や脅威警告などの米国支援能力の途絶が、ロシアの攻撃時に米外交官・軍人・警備要員が避難できなかった事案に関係したか
- 国防総省などの米政府当局者が、情報共有体制、警告能力、Starlink・Starshieldサービスへの変更を指示・承認したか、事前に把握していたか
- 情報共有の途絶とStarlinkの制限は関連していたか。いずれかが意図的な政策判断、技術的不具合、請負業者の行為、その他の原因によるものだったか
- 安全性や防衛作戦を損ない得る変更について、米要員、在キーウ米大使館、ウクライナ当局に十分な事前通知があったか
- StarlinkやStarshieldへの制限を、SpaceX、国防総省、その他米政府機関のいずれが指示・承認・実施したか。制限は米政府契約に整合していたか。国防総省はどのような対応を取ったか
- 米要員が確実に脅威警告を受けられるようにし、重要な通信・情報共有能力を維持するため、どのような即時の是正措置が実施されているか
あわせて、国防総省とSpaceXのやり取りを含む関係記録の保全を求め、11月1日までに調査状況の書面による確認と初回の説明を求めた。
なお、書簡を主導したティリス氏は、調査要求に関するSNS投稿で「最新の報道では、問題はスターリンクやSpaceXではなく、国防総省のスターシールドシステム内で起きた可能性がある」と説明。その上で「よくて受け入れがたい誤りか過失、最悪の場合はロシアの攻撃に道を開くための意図的な判断だ」との見解を示した。
政治的な背景
今回の制限は、ロシア産ディーゼルをめぐって米国とウクライナの関係が悪化するなかで起きた。
トランプ大統領は10月9日、プーチン大統領と合意した。米財務省外国資産管理局(OFAC)は同日、一般許可135号を出し、ロシア産ディーゼルの販売・輸送・荷揚げ・輸入に関わる取引を2027年4月7日まで認めた。今回の書簡に署名した9人は全員、10月13日にトランプ氏へこの合意の撤回を求めた12人連名の書簡にも名を連ねている。
ウクライナ側には、今回の制限がロシアの製油所への攻撃をやめさせるための意図的な措置ではないかと疑う声もある。ただし、制限とこの合意との直接的な因果関係を裏づける公的な証拠は、現時点で確認されていない。
SpaceXへの影響
2026年上半期では、スターリンクを含む通信部門が、営業利益ベースでSpaceXの唯一の黒字事業だった。通信部門の売上は75億4,800万ドル、営業利益は28億4,400万ドルだった。一方、宇宙部門は12億400万ドル、AI部門は37億2,600万ドルの営業損失を計上している。
通信部門のうち、法人・政府向け売上は29億1,500万ドルで、部門売上の約39%を占めた。ただし、この数字には政府関連だけでなく法人向け売上も含まれる。
政府との取引の大きさは、上場時の目論見書からも確認できる。2025年の売上約187億ドルのうち約5分の1が米政府機関向けだった。同社は2026年第2四半期に、複数年にわたるStarshield関連の米政府契約を60億ドル超受注したとも発表している。
スターシールドは米政府との契約が直接売上になる事業だ。米政府が最大級の顧客であるSpaceXが、衛星通信の運用判断をめぐって政治問題の中心に置かれうることを、今回の一件は示している。
なお、10月15日の株価下落については、ウクライナの問題のほか、マスク氏の政治的な投稿や、BarclaysがTeslaとの合併の可能性に触れたノートも要因に挙げられている。どれが主因かは明らかではない。
今後の焦点
最初の節目は、上院議員らが求めた11月1日の回答期限だ。制限が技術的な不具合なのか、米政府の判断なのか、契約上の問題なのか。監察総監の対応と今後の開示によって、明らかになる可能性がある。




