ホーム ポリティクス ポリシー・インサイト 核融合に100億ドル、米下...

核融合に100億ドル、米下院で超党派法案——2028年末までに実証炉着工

28
fusion reactor
Image generated with Adobe Firefly

2026年9月24日、米下院で超党派の「American Leadership in Fusion Act」(H.R. 10574)が提出された。核融合発電の商用化に向け、エネルギー省(DOE)に100億ドルを直接歳出し、2028年末までに複数のパイロットプラントの着工を目指す内容だ。

100億ドルをどう使うのか

提出者は、民主党のゾーイ・ロフグレン議員(下院科学・宇宙・技術委員会の民主党筆頭委員)と、共和党のジェイ・オバーノルテ議員(同委員会の研究・技術小委員長)。ドン・ベイヤー(民主)、ロリ・トラハン(民主)、ジェームズ・ギャラガー(共和)の3議員が共同提出者に名を連ねる。

最大の特徴は、100億ドルを「授権」ではなく「歳出」として盛り込んだ点だ。授権法は将来の支出枠を定めるもので、実際の資金化には歳出法が必要になる。この法案は2027会計年度の歳出として100億ドルを計上し、使い切るまで利用できる仕組みを取る。

内訳は以下のとおり。

Advertisement
  • 大型研究施設の建設(燃料サイクル、核融合中性子源など):38億ドル
  • マイルストーン型実証プログラム(新設):30億ドル
  • 既存のマイルストーン型開発プログラム:20億ドル
  • 材料・燃料サイクルの研究開発:8億ドル
  • 中小規模の研究施設:3億ドル
  • サプライチェーン:1億ドル

これとは別に、2027〜31年度で約62億ドルの研究開発費も授権されているが、こちらは将来の歳出法による予算化が必要だ。

組織面では、DOEが2025年11月の組織再編で設置した「Office of Fusion(核融合局)」を法律上の組織として位置づけ、核融合エネルギー担当次官補をトップに据える。科学局の核融合エネルギー科学プログラムを新組織に移し、国家科学財団(NSF)と連携した人材育成プログラムも設ける。

下敷きはSCSP報告書とDOEロードマップ

法案の出発点は、2025年10月に公表された報告書「Fusion Forward」だ。シンクタンクSCSP(Special Competitive Studies Project)の超党派委員会がまとめたもので、上院のジム・リッシュ(共和)、マリア・キャントウェル(民主)両議員も関与した。

報告書は、米国が科学面と民間投資でリードする一方、中国が研究施設の整備を先行させる「インフラ先行」戦略で追い上げていると指摘。2028年末までに産業界主導の実証炉を複数着工するという国家目標を掲げ、その実現に100億ドルが必要だとした。

法案はこの目標をほぼそのまま条文化し、核融合局の任務に「2028年12月31日までに複数のパイロットプラントの着工」を明記した。一方、報告書が求めた大統領令による国家安全保障上の優先事項化や、許認可・送電網接続の迅速化といった規制面の提言は含まれていない。

もう一つの下敷きが、DOEが2026年6月に最終決定した「核融合科学技術ロードマップ」だ。条文は、研究施設をこのロードマップの優先事項に沿って建設するよう求めている。ロードマップはパイロットプラントと商業核融合発電の時期を「2030年代半ば」としつつ、その実行は議会の将来の歳出次第だとした。法案は、2027年度の100億ドルを直接書き込むことで、この資金面の不確実性を減らそうとしている。

すでに民間資本が流入

FIA(Fusion Industry Association)の調査によると、対象となった核融合企業56社は、2026年7月までの1年間に過去最高の44.8億ドルを調達した。2021年の調査開始以来の累計は142.4億ドルに達する。

中心にいるのは米国企業だ。56社のうち28社が米国企業で、10億ドル超を調達した5社はすべて米国企業である。Commonwealth Fusion Systems(CFS)は2026年7月に10億ドルを追加調達し、累計調達額は40億ドルと業界全体の約3割を占める(同社発表)。出資者には三井物産・三菱商事が主導する日本企業連合も名を連ねる。Pacific FusionもシリーズAで9億ドル超を調達している。

今回の100億ドルは、すでに民間資本が流れ込む産業に、政府が実証段階の研究施設や開発費を上乗せする構図だ。CFSのボブ・マムガードCEOは、法案が民間投資をさらに呼び込むと期待を示している。

「AIでプラズマを予測できる」

共同提出者のベイヤー議員はNextgov/FCWの取材に、大規模な核融合エネルギーの実現まで「2〜10年」と語り、AIによるプラズマのモデル化が可能になったことを理由に挙げた。

法案がいう「パイロットプラント」は、送電網に正味50MW以上の電力を3時間以上連続で供給できる施設だ。「2〜10年」という幅の広さは、この基準に到達するまでの不確実性の大きさも示している。

100億ドルの受け手候補

法案ページには約70の支持団体が並び、既存のマイルストーン型プログラムに2023年に採択された8社がすべて含まれている。法案はこのプログラムに20億ドルを追加し、30億ドルの実証プログラムを新設する。主なプレーヤーは以下のとおり。

企業方式主な出資元評価額・取引規模
Commonwealth Fusion SystemsトカマクGoogle、Eni、現代自動車グループ、三井物産・三菱商事主導の日本企業連合など。累計調達額約40億ドル非開示(2026年7月の10億ドル調達時)
Pacific Fusionパルス磁場による慣性核融合General Catalyst、Breakthrough Energy Ventures、Lightspeedなど。シリーズAで9億ドル超非開示(2024年10月)
TAE Technologies磁場閉じ込めGoogle、Chevron Technology Ventures、ゴールドマン・サックス、米国住友商事などTrump Media & Technology Group(DJT)との合併取引規模60億ドル超
Type One EnergyステラレータBreakthrough Energy Ventures、TDK VenturesなどシリーズBのプレマネー9億ドル(2026年1月、報道ベース)

CFS、Type One Energyは2023年のマイルストーン型プログラム採択企業。評価額・取引規模は各社・DJTの発表などに基づく。TAEはDJTとの合併手続きを進めており、DJTは法案提出6日後の9月30日、合併に向けた登録届出書(S-4)を提出した。

政府は「最大50%」、知財は企業側

注目すべきは、政府と企業の「取り分」の設計だ。新設の実証プログラムでは、企業がまず開発費を全額負担する。DOEが支払うのは、マイルストーンの達成がDOEの検証で確認された後で、各マイルストーンにかかった費用の最大50%だ。マイルストーンは審査を経て公開される。

さらに、参加企業は知的財産の権利を保持し、DOEはいかなる権利も取得できない(Bayh-Dole法などが求める場合を除く)。既存・新設の両プログラムで最大50億ドルの公的資金が投じられても、生まれた技術を政府が所有する仕組みではない。民間資本を呼び込むための制度設計といえる。

What’s Next

法案は下院科学委員会に付託された。中間選挙を約6週間後に控えた9月下旬の提出であり、単独法案としての年内成立は日程的に難しい。第119議会の会期末で廃案となれば、2027年1月に始まる第120議会で再提出が必要になる。

ベイヤー議員は、民主党が下院を奪還すれば、科学委員会の委員長に就くとみられるゾーイ・ロフグレン議員(D-CA)がこの法案を優先するとの見方を示している。

ポイント

  • H.R. 10574は、100億ドルを2027年度に直接歳出する(授権ではない)
  • 最大の項目は大型研究施設(38億ドル)と、新設の実証プログラム(30億ドル)
  • SCSP報告書の「2028年末までに複数着工」という目標を条文に明記
  • 実証プログラムは費用の最大50%を達成後に支払い、知的財産は企業が保持
  • 年内の成立は難しく、焦点は中間選挙後の第120議会