AIモデルの主導権をめぐって激しくやり合うオープンAIとアンソロピック。開発競争、人材引き抜き、そして今年予定されるIPOでの火花――両社の因縁は今や政治の舞台にも飛び火し、中間選挙に向けた水面下の攻防を繰り広げている。
7月に公開されたFEC(連邦選挙委員会)の最新提出書類によると、アンソロピックCEOのダリオ・アモデイは5月、AI安全規制を積極的に支持する候補者を支援するスーパーPAC「Public First」に100万ドルを献金していた。これまで民主党政治家への小口献金はあったが、7桁規模の政治献金は今回が初めてとされる。
書類ではさらに、6月中旬にアンソロピック社員5人が計200万ドル超を同PACに献金していたことも判明。献金者リストにはグーグル・ディープマインド社員(25万ドル)、そして”敵陣営”であるはずのオープンAI社員(5,000ドル)の名前も一件ずつ含まれていた。
アンソロピックは2月、Public Firstの上部組織にあたる非営利団体Public First Action(政治活動を伴わない「公教育」専門の枠組み)に2,000万ドルを拠出している。会社としての建前は「AI政策についての世論啓発」にとどまり、選挙応援には使えない資金という位置づけだ。だが実際に候補者支援へ資金が流れるのは、その傘下にあるPublic First PACや系列のスーパーPACの方であり、今回のアモデイ個人の献金もこちらに直接入っている。
このタイミングは偶然ではない。Public Firstは同時期、系列のJobs and Democracy PACに300万ドル超を移し、ジェリー・ナドラー下院議員(引退表明)の後継を争うニューヨークの予備選で、州AI安全法の起草者でもあるアレックス・ボレスに総額1,200万ドルを投じていた。対するスーパーPAC「Leading the Future」(イノベーション優先、AI産業に友好的な政策・規制を支持)は、オープンAIの共同創業者グレッグ・ブロックマンらの資金を背景に800万ドルを投じてボレスを攻撃。6月の予備選でボレスは僅差で敗れている。
この代理戦争とも言える事態は、5月末付のニューヨーク・タイムズが「ビッグマネー政治で最も険悪な関係」と評した根深い対立の延長線上にある。
Public Firstを率いるブラッド・カーソン元下院議員は、「Leading the Futureが介入する選挙区には必ず対抗する」と徹底抗戦の構えを見せる。対抗広告の支出にとどまらず、Leading the Futureが一方的に支持表明した議員らにPublic First関係者らが直接連絡し、支持を拒否するよう圧力をかけるという神経戦まで展開しているという。
こうした対立を受け、民主党系スーパーPAC「House Majority PAC」は、11月の下院奪還を優先する立場から、本選の激戦区では両陣営が争わないよう水面下で調整に動いているとされる。板挟みになった民主党候補の中には、AI政策そのものへの言及を避けるケースも出始めている。
もっとも、資金力では大きな差がある。 Leading the Futureは直近3カ月で新たな献金はないものの、グレッグ・ブロックマン夫妻やマーク・アンドリーセン氏率いるベンチャーキャピタルa16zなどによる初期の巨額資金を背景に、6月末時点でも約3,100万ドルの手元資金を維持している。
一方、Public First系3PACの手元資金は合計約180万ドル。ボレス氏への大型投資の反動もあり、11月の本選を前に資金面では早くも息切れの様相を見せている。短期決戦では攻勢を仕掛けたPublic Firstだが、長期戦では持久力に課題を抱える構図だ。
それでもカーソン氏は、「世論は動かした」と成果を強調する。予備選の勝敗について評価は分かれるものの、AI規制が予備選の主要争点として扱われるまで存在感を高めたことは確かだ。
両陣営を「どちらも同じ」と冷ややかに見る候補者もいる。しかし、この資金戦を単なるロビー活動として片づけるのは難しい。11月の中間選挙は、AI業界が本格的に政治資金を投じる初の選挙であり、選挙後の議会における権力のバランスによっては、AI企業の規制コストや市場参入障壁、さらにはIPO後の企業価値まで左右する可能性がある。


