火曜日, 5月 12, 2026
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米クリプト規制の設計図――上院『クラリティ法案』注目ポイント

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米上院銀行委員会は5月12日深夜(現地時間)、309ページに及ぶ「クラリティ法案」の最新テキストを公開し、5月14日に設定されたマークアップ(修正・採決審議)に向けた準備を整えた。下院版はすでに2025年7月に294対134の超党派賛成多数で可決済みであり、銀行委員会のマークアップは法案を大統領署名へと近づける重要な節目となる。

クラリティ法案をめぐっては、現在3つの異なるバージョンが存在する。

フレンチ・ヒル下院議員(共和・アーカンソー)が2025年5月に提出した下院版(H.R.3633)は、「成熟したブロックチェーン」テストによってデジタルコモディティ(CFTC管轄)と証券(SEC管轄)を区別することを核心とし、イノベーション促進を重視した「軽いタッチ」の規制アプローチを採る。

上院農業委員会版は「デジタルコモディティ仲介業者法(DCIA)」として、CFTCによる現物市場監督に特化した比較的狭い範囲の法案として、2026年1月に党派ラインに沿った賛否で委員会を通過した。

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上院銀行委員会版は3つの中で最も包括的なバージョンだ。FTX破綻のような危機をもたらした「断片的な監督体制」の是正を目的とし、AML(マネーロンダリング対策)や制裁対応を強化、DeFiプロトコルと取引する中央集権的な仲介業者には厳格なリスク管理・コンプライアンス基準を課す。

当初は2026年1月のマークアップを予定していたが、ステーブルコインの利回り提供をめぐる暗号資産業界と銀行業界の利害対立が解消できず約4か月延期された。

銀行委員会でのマークアップ通過後は、同委員会版と農業委員会版を上院内で統合し、統合パッケージとして上院本会議に臨む。フィリバスターを破るには60票が必要なため、上院指導部はその段階で民主・共和両党との交渉を本格化させるとみられる。上院通過後は、さらに下院版との統合を経てはじめてトランプ大統領の署名へと至る。

注目ポイント7選

① SECの権限を制約――XRP判決を立法で追認(Sec.105)

法案の根幹をなす条項のひとつが、SECによるデジタル資産の「証券」認定を制限する規定だ。分散型台帳上のトークンについてはSECが証券と認定することを難しくすることに加え、「米国の裁判所が証券でないと確定判決を下した資産」については、SECが改めて証券と判断することを明示的に禁じている。これはRipple対SEC訴訟の判決を事実上、立法で追認する内容と読め、XRPをめぐる長年の法的不確実性に終止符を打つ可能性がある。SECの「エンフォースメント中心の規制」を制限する内容であり、XRPだけでなく既存アルト市場全体にとって極めて重要なルールとなる。

② DeFi開発者・ノード運営者を広く保護(Sec.301/601/604)

DeFi関連では、複数の条項が一体となって開発者とインフラ参加者を保護する枠組みを形成している。「ブロックチェーン規制確実性法(BRCA)」(Sec.604)はブロックチェーン開発者をマネー送金業者の登録義務から免除する。Sec.601はさらに広く、ネットワークトランザクションのコンパイルや分散型台帳への計算リソース提供など、ソフトウェア開発に専ら関連する活動について、証券法から開発者とネットワーク参加者を保護する。

一方、Sec.301はプロトコルが「非分散型」と判断される基準を、「制御・裁量・プロトコル運用の変更または検閲能力」に焦点を当てるとし、分散型ガバナンスやノード、バリデータ、セキュリティ評議会は原則的に該当しないと明確化。これらのプレイヤーに法的保護を与えるとともに、実質的な支配権を持つ者にはAML義務が発生する設計となっている。

開発者規制については法執行機関から懸念が示されていたが、共和党のグラスリー司法委員会委員長と銀行委員会メンバーのルミス議員が5月12日に合意に達し、懸念に対応する文言が盛り込まれた。

③ セルフホステッドウォレットの権利を明文化(Sec.605)

「Keep Your Coins Act」と呼ばれるSec.605は、連邦機関がセルフホステッドウォレットの使用を禁止・制限することを明示的に禁じる。「個人が自分の資産を自分で管理する権利」を法律で保護するという踏み込んだ内容だ。マネーロンダリング対策や制裁に関する既存の執行権限は維持されるが、ウォレットそのものへのアクセスを規制当局が制限することはできなくなる。

④ NFTを原則として証券法の適用外に(Sec.602)

NFTについては、投資契約を伴う場合を除き、原則として証券法の適用外であることを明示するセーフハーバーが設けられた。NFT市場に対するSECの規制権限をめぐる不確実性を解消する条項であり、クリエイターやプラットフォームにとって重要な意味を持つ。

⑤ FTX破綻を教訓に――破産時の顧客財産保護(Sec.701/702)

2022年のFTX破綻では、顧客資産が破産手続きにおいて適切に保護されないという問題が露呈した。Sec.701はデジタル資産を破産手続きにおける「顧客財産」として明示的に定義し、清算手続きにおいて他の商品や証券と同等の保護を受けられるようにする。Sec.702はさらに、デジタルコモディティ取引に破産セーフハーバーを設け、標準的な破産手続きの外でポジションを清算し担保にアクセスできる仕組みを整備する。

⑥ ステーブルコインの利回り支払い――「真正な活動報酬」は認める(Sec.404)

約4か月の交渉の末にアルブルックス議員とティリス議員がとりまとめた本条項は、取引所など「デジタル資産サービスプロバイダー」に預金類似の受動的な利息・利回りの支払いを禁止しつつ、「真正な活動・取引ベースの報酬」については例外として認める。

なお、クリプト業界はこの妥協案に支持を表明したが、銀行業界側は「銀行預金がステーブルコインに流出し、経済成長と金融安定を脅かす」として依然反発している。

何が「真正」にあたるかはSEC・CFTC・財務省の共同規則で今後定義されるため、実務上の基準は規則制定を待たなければならない。

⑦ 成立は始まりに過ぎない――施行は最大1年以上先(Sec.906)

見落とされがちだが重要な条項が施行タイムラインだ。法案が成立しても施行は制定から360日後を原則とし、規則制定が必要な条項はさらに「最終規則公布から60日後」のいずれか遅い方が適用される。法律の成立はゴールではなく、SEC・CFTC・財務省による規則策定という次の攻防のスタートラインに過ぎない。

成立の行方――倫理条項と多段階の壁

銀行委員会での最大の残課題は、トランプ大統領とその家族による暗号資産関連事業からの利益(少なくとも14億ドルと推計)を背景に、民主党が要求する「倫理条項」だ。今回公開された最新テキストには倫理条項が含まれておらず、銀行委員会で民主党の筆頭役であるウォーレン議員は「この法案はトランプ大統領の暗号資産腐敗を加速させる」と強く批判。クリプト法案策定に前向きなギリブランド議員も「倫理条項なくして支持はない」と明言している。つまり、党派問題化している。

スコット銀行委員会委員長は、棚上げして進める姿勢を示しているが、問題を本採決に先送りするに過ぎない。委員会通過後、上院指導部が60票確保に向けて民主・共和両党と条件交渉を進める段階こそが、実質的な交渉の場となるとみられる。

一方、トランプビジネスをターゲットにした倫理条項が盛り込まれた場合、大統領が拒否権を行使するリスクも浮上する。予測市場では法案成立確率が7割まで上昇しているが、銀行委員会採決・両院統合・本会議60票・大統領署名という多段階のプロセスを経る必要があり、成立はいまだ予断を許さない。