先週、右派インフルエンサーたちが共通の話題に取り上げたのは、ポッドキャスト番組「The Ben Shapiro Show」などで知られるDaily Wireの人員削減だった。
ワシントン・ポストによれば、同社は年初来13%の人員削減を実施し、現在の従業員数は200人超。共同創業者のベン・シャピーロは売上減少を認めつつ、「たとえ戦略的ビジネス上の失敗につながるとしても」、政治的立場を変えないと同紙に声明を出した。そしてタッカー・カールソンやキャンディス・オーウェンズを指し、以下のように述べた。
「保守運動の多くが、過激なイスラム主義を支持したり、ウィンストン・チャーチルの悪行について持論をふりまいたり、ロシアのスーパーマーケットの素晴らしさを称賛したり、チャーリー・カークの未亡人を嘲笑したりすることでクリック数を稼ぐことをよしとしているが、われわれはそうしたことをしないと決めた」
なお、同社の失速は今に始まったことではない。
YouTubeチャンネル「The Daily Wire」の登録者数は、2025年初頭から減少傾向が鮮明となり、16か月のうち15か月は横ばいまたは減少を記録した。主力チャンネル「The Ben Shapiro Show」も、16か月のうち12か月は横ばいまたは減少となった(Social Bladeデータ参照)。カールソンやオーウェンズ、メーガン・ケリーといった後発ストリーマーにも、視聴数で水をあけられ、それは今週の数字にも現れている。
主要インフルエンサー今週の数字
チャンネル 登録者数 前週比 週間視聴数(推計)
──────────────────────────────────────────
ショーン・ライアン 616万人 +1万人 2,862万回
タッカー・カールソン 559万人 ±0 1,247万回
メーガン・ケリー 415万人 −1万人 1,087万回
キャンディス・オーウェンズ 599万人 +1万人 1,058万回
ジョー・ローガン 2,090万人 ±0 799万回
ベン・シャピーロ 705万人 ±0 565万回
マット・ウォルシュ 341万人 +1万人 528万回
ティム・ディロン 117万人 +1万人 202万回
ティムキャスト 147万人 ±0 86万回
※5/11測定。週間視聴数は総視聴数の前週差分で算出
今週もショーン・ライアンが週間視聴数2,862万回でトップ。カールソンは1,247万回、ケリーは1,087万回と高水準を維持している。シャピーロは565万回で、カールソンの半分以下にとどまった。
失速理由:ポピュリズムの共食い
2024年大統領選で保守連合としてまとまりをみせた彼らとシャピーロの分断線となっているのが、中東政策だ。シャピーロはイスラエルとの強固な同盟、軍事アクション、トランプの外交姿勢を擁護する。一方、カールソンらは非介入の立場を強め、イスラエル批判へと軸足を移動している。ここ最近はトランプに対する直接批判も辞さない。
保守層におけるトランプ政権のイラン政策への支持はいまだ7割近くある。ただし、その内訳は、65歳以上84%に対し、30-49歳は60%と世代間ギャップが広がっている。18-29歳の共和党支持、または共和党寄り無党派では49%で、アメリカ・ファーストに対する裏切りとみなす若者が増えている。カールソンらの高水準は、こうしたトレンドを反映している。
ヴァンダービルト大の保守系メディア史研究者ニコール・ヘマーはワシントン・ポストの取材に対し、Daily Wireの問題は、ビジネスモデルの問題に加え、「共和党政治を蝕む”ポピュリズムの共食い”」にあると指摘する。
反エスタブリッシュメントを掲げる急進的な右派勢力の台頭により、強固なイスラエル支持に象徴される従来型保守との対立が深まり、その支持基盤は弱まりつつある。シャピーロは、そうした弱まる伝統保守の流れを体現する存在になりつつあると説明する。
失速理由:急速な事業拡大
保守派ニュースサイトからスタートした同社は、マルチメディア展開と並行してビデオ配信サービス「DailyWire+」(2022年開始)、子供向け配信「Bentkey」(2023年開始)といったサブスクリプションモデルを導入。出版事業、2022年に初の映画制作を手がけるなど多角化を進めてきた。Axiosによれば、2022年1月時点で過去12か月収益が1億ドルの大台を突破し、従業員数を150人に拡大。2023年の資金調達時における企業評価額は10億ドルを超えるとも報じられた。
しかし、こうした取り組みが投資回収、収益基盤の強化につながったか定かではない。書籍出版部門はほぼ閉鎖したとされ、昨年3月に共同創業者でサブスクサービス立ち上げを主導したジェレミー・ボーリングが、CEOの職を降りた。
「ドッグフードの広告に大金を叩いても、犬が食べなければ売れない」
Daily Wire人員削減の一報に右派論客たちは早速反応した。
キャンディス・オーウェンズは、人員削減を「エンロン並み一夜の崩壊」と皮肉り、ストリーマー界隈では「私の功績とされている」とアピールした。Daily Wireでパーソナリティを務めていたオーウェンズは、イスラエルに関する発言をめぐりシャピーロらと対立し、2024年に同社を去った後、独自のポッドキャストを右派有数の配信チャネルに成長させた。番組では、シャピーロ側による批判や同社がらみの係争案件を取り上げることも多い。同社の失速の理由は、去ったタレントを攻撃し、共存を拒むことにあるとの考えを語った。
カールソンは、ケリーと対談し、「ドッグフードの広告に大金を叩いても、犬が食べなければ売れない」と、シャピーロ側の弱体化を例えた。「もっと戦争をしたいなんていう有権者がいるか?」と問いかけ、「有権者に背けば、失敗という報いが待っている」と続けた。
ケリーは、シャピーロによる昨今の自身を含む論客仲間に対する攻撃を上げ、「保守派がこうした取締りを支持するとは思えない」と主張。「意見が合わずとも、われわれは破門などしない」と語った。
シャピーロは、昨年のTPUSAのイベントの壇上で、オーウェンズやニック・フエンテスを名指しし、「陰謀論と不誠実さを広めている」と非難。さらに、タッカー・カールソンやメーガン・ケリーらがオーウェンスを公然と批判していない点についても言及し、「沈黙は許されない」と批判の矛先を拡大していた。
彼らの対立は、単なる内輪揉めではない。その背景には、ポスト・トランプのMAGAを誰が方向づけるかという主導権争いがある。そして今、右派視聴者が求めているのは、保守運動を制度として守る論客よりも、「裏切られた怒り」を代弁するストリーマーたちなのかもしれない。Daily Wireの停滞は、単なる経営問題ではない。右派メディアの重心が、資本型メディア企業から、個人配信者たちのネットワークへ移っていることを示している。

