経歴詐称議員も放置 マッカーシー下院議長にみる政界サバイバル術


シティ・グループやゴールドマン・サックスで働いたとする経歴詐称スキャンダルを皮切りに、過去の虚偽発言や詐欺行為が次から次へと明るみに出ている共和党の新人、ジョージ・サントス下院議員(34、ニューヨーク州)。その内容も「祖母がホロコーストの生存者と偽った」「母親が911同時多発テロの犠牲者と偽った」「クラウドファンディングで集った他人の犬の手術費をネコババした」など、極めて悪質だ。

民主党はもちろん、身内の共和党からもサントス氏の辞任を求める声が上がっているが、肝心の共和党下院トップ、ケビン・マッカーシー下院議長(57、カリフォルニア州)は、今のところ辞任要求の波に乗る気配はない。刑事訴追されたわけではなく、「議員を選ぶのはあくまで有権者」であることを理由に、一連の騒動からは徹底して距離を置き、サントス氏を常任委員会の任務にまで就かせている。

有権者はむしろ騙された側なので「有権者が選んだ」という理屈は少々無理がある気もするが、共和党としては、ようやく下院で多数派を奪還した今、議席を減らすのは避けたいところ。党幹部らも軒並みマッカーシー氏と同様に“庇いはしないが責めもしない”という態度を決め込んでいる。

ただ、先週CNN記者の質問に答えたマッカーシー氏は、少しベクトルが違った。サントス氏について、「彼の履歴書には常に疑問を持っていた」と、突如ハシゴを外すような“後出しジャンケン”的コメントをした。

サントス氏には選挙資金法違反の疑いもあり、すでに米当局や下院倫理委員会が捜査に動いている。上述の「有権者が選んだ」という理屈も、刑事訴追されたとなれば話は別。事態が急転した場合に備え、サントス氏と自分は一枚岩ではないとさりげなく示し、先手を打ったのかもしれない。

実はマッカーシー氏、このような後出しジャンケンは数多い。例えば2年前の議会議事堂襲撃前後のトランプ氏をめぐる言動も、その一貫性の無さで同僚議員らを大いに困惑させた

変わり身の早さはカメレオン級? 

マッカーシー氏は党幹部の中でも特にトランプ氏寄りで知られる。2020年の大統領選ではバイデン氏の勝利を認めず、一部の州の投票結果に異議を唱える訴訟にも名を連ね、忠臣ぶりを窺わせた。

しかし、翌年1月6日の議会議事堂襲撃を境にトランプ氏への風当たりが強くなると、発言がブレ始める。

事件翌週の13日。下院の演説で、事件に関して「トランプ氏には責任がある」と明言し、「直ちに暴動参加者を非難すべきだった」と力強く訴えた。これと前後して、プライベートでは同僚議員や記者らにトランプ氏への不満や、「選挙で勝ったのはバイデン氏」などの本音を漏らしていたというが、トランプ氏を公に批判したのはこれが初めてだった。

当時は院内総務として共和党下院を牽引する立場にあっただけに、今回ばかりはトランプ氏と決別かと思わせたが、それも束の間。翌週の会見では「トランプ氏が暴動を扇動したとは思わない」と、前の週とは真逆のトーンで、しれっと立ち位置を変えた。

そのまた翌週には、中間選挙でのトランプ氏の協力を仰ぐため、同氏のフロリダの自宅、マール・ア・ラーゴを訪れ、笑顔の2ショットまで披露している。

さらに2021年5月、幾分ほとぼり冷めた頃には「大統領選の正当性を疑う者などいないと思う」と、自分が訴状に名を連ねたことすら“無かったこと”にするかのようなコメントをした。

同僚議員らによると、マッカーシー氏の主張がその時々で変わるのはこの件に関してばかりではない。共和党と袂を分かってまでトランプ氏の暴動煽動を糾弾したリズ・チェイニー元下院議員についても、「彼女をサポートするが、懸念もある」などとどっちつかずの態度を示され、周囲は振り回されたという。

恩師もバッサリ「信用できない男」

マッカーシー氏が駆け出しの頃から15年間にわたって師事したビル・トーマス元連邦下院議員は、「ケビンは基本的に、どうにでもなれる男。嘘もつくし、必要なら嘘をひっくり返すこともする。奴の言葉を信用する人間がいるか?」とかつての愛弟子をバッサリ。正義よりも自分の政治的野心の方が大事なのだと、辛口コメントを見舞った。自分の立場を守るためなら後出しジャンケンもいとわない姿勢は、昔からだったようだ。

ただ、こと近年の共和党に関しては、道義に基づいたが故に政界から姿を消した議員は多い。党内保守強硬派の「フリーダムコーカス」の圧力で辞任に追い込まれたジョン・ベイナー元下院議長や、トランプ氏の責任を追及し党ナンバースリーの座を追われ、中間選挙で敗北したリズ・チェイニー元下院党会議議長。トランプ政権時代に下院議長を務め48歳という若さで引退したポール・ライアン元議員も、トランプ氏と党との板挟みに疲弊していた。

いっそマッカーシー氏のようなブレブレの人材のほうが、末永く政界をサバイバルするのに向いているのかもしれない。


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