昨年12月、ハワイ発のユナイテッド航空機が離陸後まもなく急降下し、海面からわずか250mほどにまで接近する出来事があったことがこのほど初めて報じられた。
NBCニュースによると、昨年12月18日、マウイ島カフルイ空港発サンフランシスコ行きのユナイテッド航空1722便が、離陸から71秒後、地上2200フィート(約670m)まで上昇したところで突然降下し、海面から230mの距離に接近した。乗客乗員は機体が再び持ち直すまでの45秒間、恐怖にさらされたという。ユナイテッド航空はこの事態について認めており、内部調査報告書を提出したとしている。
この頃、アメリカでは広範囲で「爆弾サイクロン」と呼ばれる猛吹雪が発生し、サウスウエスト航空の全米規模での欠航もあって、空の便は大きく混乱していた。12月18日にはユナイテッド機とは別に、フェニックス発ホノルル行きのハワイアン航空機が乱気流に巻き込まれ、乗客乗務員ら36人がけがをする出来事も起きていた。乱気流後に機内で撮影された動画には、ギャレーにものが散乱する様子や、頭部から血を流す乗客や乗務員の姿が映っている。
Video emerges of the aftermath from the Hawaiian Airlines flight that hit severe turbulence on approach to Honolulu on Sunday, injuring 36 people. The U.S FAA and NTSB are both investigating the incident. Viewer discretion advised. https://t.co/5op5lANBgz pic.twitter.com/3h20TPO0Yu
— Breaking Aviation News & Videos (@aviationbrk) December 20, 2022
ユナイテッド航空1722便は、事前に悪天候の報告が出ていたものの、午後2時29分にカフルイ空港を出発。急降下したのは管制官との交信の合間の45秒間で、その後急上昇した際の重力加速度は通常の約2.7倍に達していたという。
重力加速度の変化には速度以外に角度なども影響し、場合によっては人体に危険をもたらすこともある。専門家は、上向きの重力加速度が5gになると、心臓が脳に血液を送る機能が低下し、数秒で酸欠状態に陥り気を失うと指摘。下向きの場合はさらに危険で、「脳内で血液がうっ血し、顔が膨張し、下まぶたに目を覆われる。光しか見えなくなる『レッドアウト』と呼ばれる現象だ。マイナス3gの環境では、血液が肺に届かなくなり酸素が補給できない。このため気を失う」と専門家は話した。
一方で別の専門家は、脳細胞はもっと頑丈で、酸欠で脳細胞が死ぬまでには約4~6分かかる、としている。
ユナイテッド航空の内部報告書によると、同機体は分速8600フィート(2621m)の速度で45秒間急降下したあと、再び機体を安定させ、無事サンフランシスコに到着した。その2時間後にはシカゴに出発したという。ユナイテッド航空の広報はデイリーメールの取材に対し、シカゴへの出発前に機体の検査を行ったとし、1722便の担当パイロットらには計2万5000時間の追加訓練と課したと説明している。
報告書はサンフランシスコ到着後速やかに提出され、連邦航空局(FAA)やパイロット協会(ALPA)と協力して調査した結果、パイロットの追加訓練が適当と判断されたという。「安全は常に我々の最優先事項」と航空会社側は話している。
アメリカではここ最近、航空機同士が衝突寸前で事故を回避するニアミスも相次いでいる。今月はじめにはテキサス州オースティンのバーグストロム国際空港の滑走路で、到着したばかりのFedExのB767型貨物機が離陸前のサウスウエスト航空の旅客機B737と100フィート(約30m)の距離まで接近した。先月には、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港の滑走路で、デルタ航空とアメリカン航空の旅客機が1000フィートまで接近し、衝突を回避している。
このようなニアミスは航空業界で「インカ―ジョン(侵入)」と呼ばれるが、このように最も危険度が高く大惨事を寸前で回避する「カテゴリーA」のケースは非常にまれだという。FAAは昨年1年間で1732件のインカ―ジョンの報告を受けているが、ほとんどが「安全に直接影響はない」ものに分類されている。
専門家は、パイロットばかりでなく管制官、整備工、技術者、地上スタッフなどにも問題があると指摘。実際、滑走路のニアミス2件はいずれも管制官の人為的ミスが主な原因だという。2件のニアミスについてはFAAがさらに詳細を調査している。