「トランプティ・ダンプティ」保守系メディア トランプ氏とおさらば?

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8日に投開票が行われた米中間選挙では、共和党が予想外に苦戦。途中経過では、連邦上院選と知事選の議席の増減数は、それぞれ-1と-2となった。連邦下院選でも民主党が善戦し、一部で予測された共和党の圧勝とは程遠いレースが展開されている。トランプ前大統領(76)の支持を受けた候補者が、重要州で敗北するケースも多く、中間選挙における共和党の不振は“トランプ氏の敗北”といった論調も広がりつつある。

そうした中、保守系メディアを中心に手掛ける「メディア王」ルパート・マードック氏(91)の媒体が一斉に、再選を賭けたフロリダ州知事選で大勝したロン・デサンティス知事(43)を“新たな共和党のリーダー”と持ち上げる報道を展開。かつては蜜月関係にあったトランプ氏に見切りをつける様子を伺わせた。

マードック氏率いるニューズコープ社傘下のタブロイド紙、ニューヨーク・ポストは投開票から一夜明けた9日、朝刊の一面にデサンティス氏の名前をもじった「DeFUTURE」という見出しとともに、同氏が家族と再選を祝う写真を掲載し大々的に報じた。

さらに翌10日の一面では、「Trumpty Dumpty」と見出しを打ち、卵の姿で有名なキャラクター「ハンプティ・ダンプティ」とトランプ氏の顔を掛け合わせた加工画像に「ドンは(壁は立てられなかったが)大きく転落した――共和党を再びまとめ上げることができるのか?」とコメントを添えて掲載。ウェブ版ではさらにこの紙面の画像に「TOXIC TRUMP(有害なトランプ)」とキャプションを添えるなど、露骨なトランプ叩きを展開した。

同じニューズコープ傘下の有力紙ウォール・ストリート・ジャーナルも、「DeSantis Florida tsunami(フロリダ州知事再選の「津波」)」と題した社説を掲載。「彼のフロリダでの成功は、州外の有権者たちの注目を集めることは疑いがない」としたうえで、「ドナルド・J・トランプも注視していたはずだ。――苦々しい思いで」と、2年後の次期大統領選での両者の戦いを予期させた。また、「勝者はデサンティス。2024年のトランプにもたらす意味は?」と題した元外交官のデイヴ・セミナラ氏による論説記事では、4年前の選挙では接戦の末かろうじて知事に当選したデサンティス氏がいかに20ポイント近い大差で再選を果たすまでに上り詰めたかを説き、トランプ氏の脅威となる可能性に言及した。

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マードック氏のもう一つの巨大企業フォックス・コーポレーション傘下で保守系メディアの代表格、FOXニュースも、デサンティス氏の活躍に大きく注目している。FOXニュースのウェブサイトは、デサンティス氏を「共和党の新たなリーダー」と絶賛する保守派コメンテーターのコラムをトップページに掲載し、「A NEW ERA(新時代)」と大きく見出しを打った。

また、インタビュー番組「Fox & Friends」では、9日にゲスト出演したニュート・ギングリッチ元米下院議長が「昨夜の最大かつ唯一の勝者はデサンティス知事だと思う。彼はほぼ確実に、トランプ氏を卒業したい共和党支持者の結集点になる」と、デサンティス氏をトランプ氏に代わるカリスマとして位置付けた。

トランプ氏は来週15日にフロリダの自宅「マールアラーゴ」で「ビッグアナウンスメント」をすると公言。大統領選への出馬を正式表明すると見られているが、共和党の候補者指名争いでトランプ氏と互角に戦えるライバルとして、ここ最近デサンティス氏の名が急浮上している。トランプ氏もこれを意識しているようで、中間選挙の応援演説の席でもデサンティス氏を「デサンクティモニアス」(Sanctimoniousは「聖人ぶった」「偽善的」などの意)と呼んで揶揄するなど対抗意識を露わにしていた。デサンティス氏自身はこれまで、大統領選出馬について言及していない。

米大手メディアは大半がリベラル寄りのところ、マードック氏の抱えるメディアは数少ない保守寄りの大手として、共和党の基盤や力関係に大きな影響力を持つ。

CNN はマードック氏の経営手腕をよく知る人物の話として、同氏率いるメディアが軒並みデサンティス氏を絶賛するのは「偶然ではない」と伝え、デサンティス氏の顕著な活躍を機に、トランプ氏が未だ共和党主流派に強い影響力を持つ現状からの脱却を促していると分析した。

マードック氏はトランプ氏と数十年来の蜜月関係にあり、トランプ氏は元妻イバナさんとの離婚騒動に始まる個人的なスキャンダルをネタとして提供しつつ、マードック氏のメディアを報道ツールとして利用してきた。ただ最近ではこの関係に陰りが見えていると度々報じられており、今年7月にもニューズコープ傘下の新聞が昨年1月の議会襲撃事件に絡むトランプ氏の対応を批判する論説記事を一斉に掲載している。

今回の中間選挙では、共和党が全体的に振るわない中、デサンティス氏は民主党の対立候補、チャーリー・クリスト氏に20ポイント近い大差で再選を果たした。特に民主党支持層の多いマイアミ地区を含むほぼすべての選挙区で安定した票を獲得したことで幅広い支持基盤を見せつけ、全米に存在感を示した。