2017年最も嫌われた映画? ジェニファー・ローレンス主演「マザー!」

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「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキー(Darren Aronofsky)監督と、ジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)主演のサイコ映画「マザー!」(Mother!)が、9月15日より全米で公開となった。
オープニング週末の興行成績は、750万ドル(8億2500万円)。初登場第3位は、ジェニファー・ローレンスが過去に主演の映画としては、過去最低の数字を記録した。低調な成績もさることながら、批評家や観客の評判や意見が、真っ二つに分かれていることも話題となっている。

ストーリー

ビクトリア調の家に住む2人の男女。男性(ハビエル・バルデム)は、かつてヒット作を出した人気の詩人だったが、今はスランプに陥っている。パートナーの若い女性(ジェニファー・ローレンス)は、家をリノベーションしながら、静かな生活を送っている。ある日、2人の見知らぬ男(エド・ハリス)が現れる。彼は男性のファンだという。後に妻(ミシェル・ファイファー)も訪ねてきて、夫婦で居候をはじめる。そのうち2人の息子まで現れる・・・。

オープニングの興行成績

週末の興行成績は、全米2,368館で750万ドル(8億2500万円)を記録。一方、9月8日から公開をスタートしたスティーヴン・キングの小説をもとにしたホラー映画「IT(邦題:IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」は、好調が続き、2週目は、4,103館で6,000万ドル(66億ドル)を達成。米国内の累計で2億1,870万ドル(240億円)となり、9月に公開された映画としては依然として過去最高を維持している。

ニューヨークタイムズが、監督に行ったインタビューによると、この作品は「マザーアース(ローレンス)と、ゴッド(バルデム)についての物語」で、気候変動や、人類による環境破壊を描いているという。
また、映画情報サイト、collider.comのインタビューでは、「作品は、聖書を元に構成されていて、どう人間が地球上に誕生したのかを議論するために参考にした。」とし、作品のテーマを、「マザーネイチャーの視点から、寓話という形式で描きたいと思った」と語っている。
監督は、現在世界で起こっている様々な現象を見て、脚本をわずか5日間で書き上げたという。作品の意図について、監督は多くを語らない姿勢を取っている。本作のミューズであり、実生活で監督の恋人のジェニファー・ローレンスは、「それを話さないなんて、恥ずべきことだわ。」と語っている。プロモーションについては、2人の意見が分かれているようだ。

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21日、ニューヨークのMoMAで開催された試写会に登壇したアロノフスキー監督とジェニファー・ローレンス。
(ニュースでは、Q&Aの中で、冗談で中指を立てるローレンスのジェスチャーが話題となった)

気になる評判は?

オープニングの週末に出口調査を行うシネマスコープ(CinemaScore)によると、本作は A+からFの評価のうち最低の「F」を記録。調査を開始した1986年以来、「F」ランクは、わずか19作品しかないという。監督は、この観客の評価について、「パンチで殴られたみたいだ。」とハリウッド・リポーター紙に語っている。

批評家、口コミサイトのロッテントマト(rottentomato)では、批評家のトマトメーターは67%の一方、一般の観客は44%が気に入ったとしている。(9月22日現在)

批評家の評価も二分されている。

  • 「主人公の二人がひどくミスキャスト」(Chicago Reagder)
  • 「一年で最も最悪な映画、いや、今世紀で最も最悪と言った方が適切かも。みんなメタファーだっていうけど、何のメタファーなのか明確に分かっている人はいない。」(New York Observer)」
  • 「目はそらさなかったけど、二度と見たいと思わない(Seattle Times)」
  • 「無作法や犯罪の度合いが行き過ぎると、業界全体が次第に戯画的となってしまう(Wall Street Journal)」
  • これらの低い評価の一方、作品を良いとする映画評は、17%ほど上回っている。

  • 「ワイルドで、印象に残る映画なのは否定できない。見た人がどう反応するかをテストする。ロールシャッハテストのよう(New York Post)」。
  • 「幻想的な聖書の寓話は、いまにも爆発寸前のようだ(Rolling Stone)」
  • 「奇妙な自己顕示癖 のローラーコースターを楽しむべきだ。(Variety)。
  • 「間違いなく、(スコセッシ監督の)「最後の誘惑」以来の、最も過激な映画(Time Out)」。
  • 「機知に富んで、ウィットのあるビジュアルや、熟練したカメラの動きは、寒気がするほどの恐ろしさ。彼の才能とも言えるエスカレーション、後半の殺気が高まっていく様は、彼の世代の映画監督の中で、ずば抜けている(New York Times)」。
  • 観客の感想も極端に分かれるコメントで溢れている。

  • 「この映画は何年にも渡って検証されるべき。見た後に何日も考えさせられるんだ。全体が恐ろしいメタファーになっている」
  • 「寓話やシンボルを分析するために、何時間も話したくなる作品」
  • 「最近の作品の中では、最もエキサイティングな作品だった。メタファーのレベルや、セリフの裏にある意味など、ハッとさせられる」
  • 手放しで評価する人の一方で、最低評価の1/2★をつける人も多い。

  • 「星はゼロをつけたいくらい。すごく悪いくて、混乱する映画だった。とってもがっかり。」
  • 「恐ろしくて、ひどくて、うんざり。まったくナンセンス。」
  • 「物語の構造が欠如している。認められない傲慢さを、もったいぶりながらディスプレーしたような作品。」
  • 「この10年間見た中で間違いなくワースト。」
  • 脚本に、聖書が参考されたことに関して、キリスト教徒への冒涜という意見もある。

    ニューヨークタイムズのコメント欄にも、

  • 「(批評家のA.O. Scottの)レビューを二回読んだけど、何の映画なのかさっぱり分からない。レビューは私を余計に混乱させた。」
  • 「最初の45分で劇場を後にした。シンボリックで、メタファーであっても、この映画は一つの大きな過ちを犯している。退屈なんだ。」
  • 「ホラー映画と呼ぶのは、広告の失敗のように思える。ホラーなのは、私がお金を払ってこの映画を見たってことよ。」
  • などのコメントが相次いだ。NYタイムズは、この映画を嫌いとする読者のコメントを集めて特集を行った。

    宣伝路線の変更? 新しいプロモーション

    配給会社のパラマウントは、週末の結果を受けてか、19日に新たなテレビCMを放映した。映像タイトルは「mother! movie (2017) – “divided” 」とし、意見の分かれる観客の反応を逆手に、マーケティングに活かそうとする意図が伺える。


    ナレーション:「過去数十年で、最も破壊的な映画”マザー”。ある人は好きだが、ある人は嫌う。しかし、誰も映画について話すことを止められない。”マザー”をあなた自身で体験しよう。」

    22日にはポスターも公開。二分化された映画評のコメントが掲載されている。

    興行成績に関しては、あたかもホラー映画のような広告宣伝で、観客を誘導したマーケティングのミスという声も聞かれる。アカデミー賞主演女優賞と主演男優賞の俳優を起用した作品の予算は、3千万ドル(約33億円)だという。
    二分した評価と、公開後の路線変更は、今後の興行にどう影響を与えるだろうか。

    見た人によって、好きか嫌いかが、はっきりと分かれる映画「マザー!」。日本では、2018年1月に公開が予定されている。
    気になる人は、不快感や混乱などは承知の上で、劇場に行って確かめてみては、いかがだろうか。