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政権内部動向:ラトニックの存在感に陰り、静かに積み上がる政権のコスト

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Joshua Sukoff / Shutterstock.com

国内外の重要投資案件と関税交渉の顔として存在感を示してきたハワード・ラトニックに、政権内部からの不満リーク、SNSでの批判拡大、エプスタインスキャンダルが重なり、逆風が強まっている。

内部軋轢 ─ 統制と摩擦

Politicoは複数の匿名関係者の証言として、ラトニックの意思決定スタイルへの不満を報じた。日常的な案件でも長官承認が必要とされ、省庁間の接触も制限されているという。ホワイトハウス会議で担当者が長官がいないことを理由に立場を示せなかった場面もあったとされる。

対外交渉の現場でも摩擦が生じていた。USTR代表のジェイミソン・グリアとの間で、対日・対欧・対韓交渉をめぐるアプローチの違いが表面化していたとNYTが報じている。グリアが通商協定を本筋で進めようとする中、ラトニックは安全保障関連関税を「戦略産業投資ファンドへの拠出」を引き出すレバレッジとして使う戦術を志向。外国政府からは「グリアとの交渉はスムーズだが、商務省でつまずく」との声が上がっていた。昨年5月にグリアとベッセントが中国との貿易休戦を成立させた直後、商務省が「中国AIチップの世界的使用を米国ルール違反とする」と発表したエピソードも、内部での信頼を損ねた一因とされる。グリアは「緊張」という言葉こそ否定したものの「安全保障関税が交渉に複雑さを加えたのは事実だ」と認めている。

Politicoはさらに、複雑なプロジェクトに飛びつき自ら勝利を宣言する”癖”が、舞台裏で細部を整理させられる高官たちの反感を買っていると伝えている。昨年ラトニックが「原子力ルネッサンス」と称したウェスチングハウスとの大型パートナーシップ締結も好例で、Politicoによれば、原子炉が適切に建設されることを保証しないまま契約を締結したとされる。内部では「今すぐ行動、詳細は後日」というラトニック流スタイルへの評価が割れ、「非常に空想的」との批判もあるという。Cato Instituteは政権が掲げる巨額投資の数字について実態との乖離を指摘する報告書を出しており、投資の実効性をめぐる検証が続けば、看板政策の持続性にも視線が向かうことになる。

トランプが憤慨?

トランプ大統領と30年来の友人であるラトニックだが、Politicoはラトニック一族企業の業績拡大をめぐり大統領が不快感を示した可能性を報じた。商務長官就任後、経営を引き継いだキャンター・フィッツジェラルドは取引が拡大し、2025年は前年比25%増収となった。他人が自分のブランドを搾取することに敏感なトランプは、マール・ア・ラーゴで直接問いただす場面があったとも伝えられる。なお、ホワイトハウスは「完全な信頼を維持している」としている。

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利益相反の疑い──時系列で見える構図

この問題の「蓄積度」を理解するには時系列が重要だ。昨年8月、上院のワイデン(民主・オレゴン)とウォーレン(民主・マサチューセッツ)がブランドン・ラトニック宛てに書簡を送り、利益相反とインサイダー取引の疑いについて調査を開始していた。その後2月20日の最高裁による関税違法判決を機に、Wired誌が昨年7月に報じていた一件がSNSで一気に拡散した。

ラトニックが商務長官就任時に息子のブランドン(会長)とカイル(副会長)に引き渡したキャンター・フィッツジェラルドが、関税の還付請求権を額面の20〜30%で買い取るビジネスを展開していたとされるものだ。「1000万ドルの関税を支払った企業なら、200〜300万ドルを受け取れる」とするキャンター側の書簡をWiredは入手している。

構図はシンプルだ。ラトニックは公の場で関税を「数千億ドルの収益をもたらす」と熱烈に支持し、推進の旗を振り続けた。その一方で、息子が経営する会社は「関税が違法になった場合に儲かる」ポジションを積み上げていたとされる疑いがある。キャンター・フィッツジェラルドは「関税の合法性に賭けるいかなる取引も実行していない」と全面否定しており、Semaforは「過熱した営業担当者の行動だった可能性がある」と報じている。ただしWiredは報道を撤回していない。

エプスタイン問題が重なる

そこにエプスタイン問題が重なる。1月末に司法省が公開した文書にはラトニックの2012年のエプスタイン島訪問、共同ビジネス投資、複数のメールのやり取りが記録されており、「2005年以降接触していない」との本人の説明と矛盾する内容だった。

2月10日、上院歳出委員会の公聴会でラトニックは宣誓のうえ島への訪問を認め、「2012年に家族旅行でボートで移動中、島に立ち寄って1時間昼食をとった」と証言した。共和党のマシー下院議員はCNNで「ラトニックは嘘をついた。辞任すべきだ」と公言。両党からの辞任圧力にさらされている。

インプリケーション

一連の動きは、人事そのものよりも、交渉体制と政策の信頼性に目を向けさせる。ホワイトハウスは擁護姿勢を崩していないが、Politicoは一部案件からラトニックを遠ざけようとする動きが出始めていると伝える。ラトニックの関与が相対的に縮小すれば、関税案件はグリアとベッセントの影響力が増す可能性があり、交渉のトーンそのものが変わりうる。

中間選挙を前に、ラトニックをめぐる論点がリスクとして意識され始めている。民主党はすでにエプスタイン問題をデジタル広告として展開し、接戦区の共和党議員を標的にしている。共和党上院議員の間でもラトニックのエプスタイン問題が「政治的負債」になりかねないとの懸念が広がっている。

内部統制への不満、家族企業の利益相反疑惑、エプスタイン問題、看板政策を支える投資案件の実効性への疑念──ラトニックをめぐる問題が次々に表面化し、トランプ政権にとっての「コスト」は静かに積み上がっている。