米・イスラエルの連合攻撃で始まったイラン戦争から、1ヶ月が過ぎた。ホルムズ海峡の事実上の閉鎖は続き、原油価格は上昇。インフレ懸念が再燃し、世界の株式市場には重い空気が漂っている。
そのさなかに行われた3月の取引が、今週まとまって開示された。同じ戦争、同じ市場環境——だが議員たちの資金配分は一方向には揃っていない。
テック株を買い増す者もいれば、金融株へ資金を移す者もいる。製造業から距離を取る者もいれば、防衛スタートアップに資金を置き続ける者もいる。
ワシントンのポートフォリオは、いくつかのシナリオへと分岐し始めている。
テック回帰のフェッターマン議員
目を引くのは、ジョン・フェッターマン上院議員(民主党・ペンシルベニア州)だ。4月3日付の報告によると、3月27日から30日にかけて、Microsoft、Amazon、Alphabet、Micronの4銘柄を購入していた。名義はいずれも子どもの口座として報告されている。
戦況が長引き、株安が定着した3月末。売りが優勢の市場で買いを入れた動きは、明確な逆張りといえる。同じ民主党のアンガス・キング上院議員が同時期にMetaやNetflixなどのテック株をまとめて売却していたことを踏まえると、同一環境に対するシナリオ認識の差が際立つ。
フェッターマン議員は商業・科学・運輸委員会などに所属する。3月上旬にAT&T株を売却し、月末にテック株へ乗り換える流れは、「通信から成長テックへ」のシフトにも見えるが、開示から意図までは読み切れない。
キャピト議員、金融実需シフト
シェリー・ムーア・キャピト上院議員(共和党・ウェストバージニア州)は、より早い段階から動いていた。
4月4日付の開示によると、3月11日から26日にかけてPNCファイナンシャルとアメリカン・エキスプレスを購入する一方、FactSetリサーチ・システムズを売却している。いずれも配偶者名義だ。
データ・分析ビジネスから、実体的な金融サービスへ。資金の向きをそう言い換えることもできる。ボラティリティが高まる局面では、法人顧客による分析ツールの支出削減も起こり得る。FactSetのような業種には逆風が意識された可能性がある。
同議員は歳出委員会と環境・公共事業委員会などに所属する。エネルギー依存度の高いウェストバージニア州という地盤を踏まえると、原油高局面での地域金融への投資として、別の読み筋も浮かぶ。
製造業と分散投資から降りるスミス議員
ティナ・スミス上院議員(民主党・ミネソタ州)は、3月31日に動いた。配偶者名義で3Mとバークシャー・ハサウェイB株を売却している。
製造業の象徴である3M、そして市場全体への分散投資の代表格であるバークシャー。この2銘柄から同時に手を引いた構図は、リスク資産全体へのエクスポージャーを絞る動きとしても読み取れる。
ホルムズ閉鎖の長期化が意識される中、原材料コストや物流の不確実性は高まり続けている。銀行・住宅・都市問題委員会、保健・教育・労働・年金委員会に所属する同議員の立場を踏まえると、生活経済への影響を見据えた判断とも考えられる。
テイラー議員、消費を離れ・インフラ寄せ
下院のデイビッド・テイラー議員(共和党・オハイオ州)は、3月15日に建材企業Installed Building Productsの株を購入し、同時に食品小売大手クローガー株を売却した。
原油高とインフレの局面で、消費関連から資金を引き、建設・インフラ関連へシフトした形だ。同議員は下院運輸・インフラ委員会のメンバーでもあり、ワシントンが進める国内建設支出の流れを個人のポートフォリオにも反映させた可能性がある。
モリソン議員、戦時の防衛・AIへの資金
ケリー・ルイーズ・モリソン下院議員(民主党・ミネソタ州)の動きは、他とは異なる軸にある。3月15日、宇宙空間にAI処理用データセンターを構築するスタートアップStarCloudの取得が報告された。
これまでの取引履歴を追うと、Project Stardust、Rhoda AI、Hermeus、Saronic Technologies、FluxAIといった企業が並ぶ。防衛、宇宙インフラ、AIにまたがる新興企業群だ。とりわけSaronic Technologiesのような海洋ドローン開発企業の存在は示唆的だ。ホルムズ海峡という海上交通の要衝が閉鎖された文脈のなかで、この領域に資金を置く議員の名前が開示に現れている。
STOCK法は議員の株取引を禁じるものではなく、1,000ドルを超える取引を原則30日以内、遅くとも45日以内に報告することを義務付けている。今週の開示に登場する取引の多くは配偶者・子ども名義を含み、具体的な約定価格も非公開だ。確定的な結論は導けない。
ただ、戦争という同一イベントに対して、テックを逆張りで買う判断と、製造業から降りる判断と、防衛スタートアップを積み上げる判断が併存した。前週に見られた「株から債券へ」という一方向の動きは、もはや共通解ではない。ワシントンに共通のポジションは存在せず、それぞれが異なるシナリオに賭け始めている。分岐が広がるのか、資金が一定のシナリオに集約していくのか、引つづき注目だ。

