アンドリュー・ヤン氏、NY市長選に出馬。ベーシックインカムの行方は?

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Andrew Yang, photo:YASAMIN JAFARI TEHRANI / Shutterstock.com

2020年大統領選に出馬した起業家アンドリュー・ヤン(Andrew Yang)氏(46)が13日、ニューヨーク市長選に正式に出馬を表明した。

ヤン氏はこの日、新たなキャンペーンビデオを公開。妻のEvelyn氏と、コニーアイランドやブロンクス、グランドアーミープラザ、ブルックリンブリッジなど市内を歩きながら、生い立ちやキャリア、政策について語っている。

ヤン氏は「一般のアメリカ人にとって経済がうまく機能していないのを見て、大統領に立候補した。(コロナで大きな打撃を受けた)自分の街を見て心が痛む」と語っている。
「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏の夢である最低所得保障を実現し、最も必要とする人々に現金を手渡すことが必要だ」と述べたほか、高速ブロードバンドへのアクセス、少人数制クラスの実現、市による地下鉄システムの管理、低所得者向けの「人民銀行」の設立などを訴えた。

ビデオには、アジア系コミュニティに影響力のあるロン・キム(Ron Kim)州議会下院議員や、ブロンクス出身の元市議会議員で、先日、下院議員に就任したリッチー・トレス(Ritchie Torres)氏も登場している。

なおキャンペーンビデオは、映画『ブラック・スワン』で知られるニューヨーク出身の監督、ダーレン・アノロスキー(Darren Aronofsky)氏が製作した。

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NY版ベーシックインカムは?

@mashupNY

ヤン氏は大統領選で、オートメーションの急速な発達がもたらす産業変革に対応する新経済の一つとして、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)を提唱。UBIを「自由の配当」と称し、18歳から64歳のアメリカ人すべてに月1000ドル(約10.5万円)の支給を約束するとしていた。

地元メディアgothamistによると、ヤン氏は今回、最も必要性の高い50万人の市民に対し、人事局のプログラムを通じて年間2000ドル(約20.8万円)から5000ドル(約52万円)を支給する縮小版UBIを検討しているという。年間の推定予算は10億ドル(約1040億円)で、慈善団体からの支援金で賄う。

これに対し、フォーダム大学の政治学の准教授Christina Greer氏は「市の運営はベンチャーキャピタリストのスキームとは異なる」と述べ、実現性に疑問を呈した。

アウトサイダーとして参戦

ヤン氏は、台湾人を両親にもつ移民の2世。ニューヨーク州スケネクタディ(Schenectady)で生まれた。父親はIBMの研究者で、母親は大学のシステム管理者だった。ブラウン大学で政治経済学を学んだのち、コロンビア大学のロースクールに入学した。

企業内弁護士を短期間務めたのち、起業家に転身。複数の起業を経験し、2012年に、ボルチモア、デトロイトなどの都市で、起業家の雇用創出を支援する非営利組織「Venture for America」を設立。2017年までに2,500人の雇用の創出に貢献した。

大統領選で知名度をあげたが、市政への関わりはないことから、区長や会計監査官を務めてきた他の候補者に比べ、市民との馴染みは薄い。

ヤン氏は現在、ニューヨーク市内ではなく、アップステートのアルスター郡ニューパルツ(New Paltz)に住んでいる。昨年はバイデン氏やカマラ・ハリス氏、ジョージア州での上院選の決選投票を支援するため、ニューヨーク州以外で過ごす日も多かった。

11日のニューヨークタイムズとのインタビューで、「マンハッタンの2ベッドルームに住み、2人の子供に遠隔学習をさせ、さらに在宅勤務することなど想像できるだろうか?」とパンデミック中にアップステートへ引越した理由を語った。この発言はニューヨークで暮らす一般人を知らない発言だとして批判を浴びた
ヤン氏は後ほど、自閉症の息子を支援し、「ニューノーマルに適応するため」引越しを決意したと声明を発表している。

37人が名乗り

現在2期目のデブラシオ市長は、任期満了に伴い退任する。6月22日に行われる民主党予備選には、エリック・アダムス(Eric Adams)ブルックリン区長や、ベテラン政治家のスコット・ストリンガー(Scott Stringer)会計監査官のほか、人権弁護士のマヤ・ワイリー(Maya Wiley)氏、ウォール街で最も有名なアフリカ系アメリカ人、シティ・グループの元副会長レイ・マグワイア(Ray McGuire)氏ら37人が名乗りを上げている。

SlingshotStrategiesが昨年実施した世論調査で、ヤン氏は他の民主党候補の中で最も高い支持率を獲得している。

ニューヨークタイムズは先月、ヤン氏の出馬に関して、市の課題を素早く学習する必要があるとしつつ、「明確なフロントランナーが存在しない市長選を揺るがす可能性がある」と述べている。